2013年9月23日月曜日

フラットで多様性のある組織 -マンション管理組合に考える新しい時代の組織論-

実は最近マンションの管理組合の手伝いをすることがあって、色々と考えさせられることがあります。いや、まあ一番は、面倒くさい、ということなんですが(笑)、それでも一つの経験かなと思って色々と観察(?)をするようにしています。

いくらか管理組合に関わってみて思ったことは、管理組合というのは、多分世の中で最もマネージすることが難しい組織の一つなのではないかということ。難しくしている要因は、その構成員の多様性と全員平等というフラットな組織構造にあります。

さて、ビジネスにおける一般的な組織論として、大企業的なピラミッド型の組織や古いヒエラルキーはこの変化に富み先の見えない世の中では古い、これからは、多様な人材一人ひとりが何かのプロフェッショナルとしてチームを構成し、フラットな関係で仕事をする時代だ!みたいな論があり、イメージとしてはそれって理想だよねと思っている人も多いのではないでしょうか。かく言う私もその一人。響きはいいんですよね、「フラットで多様性のある組織」。ただ、そのような論自体は特に新しくもないわけですが、意外とそのような組織転換をしてうまくいっているケースを周りではあまり聞かないです。(本当のプロ職で構成される業界では、過去から含め例はいくらでもあるのだと思いますが)

そこには「フラットで多様性のある組織」のマネージが難しい要因があるのではないか、そういえば、マンション管理組合ってまさに「フラットで多様性のある組織」ではないかと。ビジネスとはフィールドは異なれど、何かしらの目的を持って運営されている組織としてどうなの実際はということで、管理組合の組織としての特徴に関する観察結果を整理してみます。加えて、今後の組織のあり方について考える際の共通項も(⇒で記載)。

・構成員がとにかく多様
年齢や世帯構成、収入、買った時期、保有の目的(投資、住居、事業用など)など、とにかく構成員の属性や背景がバラバラ。一つのこと決めるにもあまりに多様な見方や意見があります。中古は特に。

⇒多様性をうまく活かす方法にはどのような組織が最適か?

・民主的な(衆愚的な?)意思決定
様々な議決事案に対して、住民は基本的に全員平等に一票ずつ。良く言えば民主的な意思決定ではありますが、一方でフラットで合議的な意思決定の難しさがあります。衆愚というと言い過ぎかもしれませんが、本当に色々な人がいるので、論理ではなく感情や感覚論で意見が飛び交うこともしばしば。また、昔から住んでいるとか地域に顔が効くとか、声の大小も結構ある。
結局議論を尽くしてというよりも、多数決で物事を決めざるを得ない状況も多く、不満や議論で戦ったしこりが残ることもあります。逆に、規約にもよりますが、3/4以上の賛成がないと決められなかったり変えられなかったりする事案もあり、意思決定が不全に陥る可能性もあります。

⇒全員がイコールパートナーの組織における意思決定の最善解はあるのか?

・責任だけで権限のないマネジメント
管理組合で言うと、理事会や委員会(修繕委員会など)がある種のマネジメントチームとなるでしょうか。理事会の専任事項については責任と権限が伴うのですが、組合の総会に諮らなくてはならない事案については、マネジメントチームで方向性は出すものの、総会で否認されればボツ。責任はあるものの権限はないに等しいケースも多々。
そして、そのマネジメントチームとして働くインセンティブはと言うと、有形の報酬はおろか無形の報酬もないのが実態かと。名誉職か輪番でお鉢が回ってきていやいやがほとんど。

⇒全員がイコールパートナーの組織におけるマネジメントとは?責任と権限、報酬の設計は?

・参加者が固定化される会議体
組合の総意で決定すべき事案がある場合など総会が開催されるのですが、ここに参加するメンバは割合固定化されていきます。やたら積極的で意見をばんばん出す人と、全く関心のない人と二極化。一方で、大規模修繕など、大きな金銭が関わる事案にはいつもにない人数が参加する。つまり、人は結局自身が関心あること、自分にとって重要だと思われること、影響の大きいことには関与をしたがるということ。(利己的な人に)より積極的に関与してもらうためのアジェンダ設定が重要。

⇒個の自律的な関与を促す会議体やアジェンダの設計は?

・教育ができない
管理組合には、当たり前ですが、普通の組織にあるいわゆる教育という概念がありません。多様性の記述とも重なりますが、本当に良くも悪くも色々な人がいるので、構成員のマンションに関する知識や資産・金銭に関するリテラシーは千差万別。また、ビジネスであれば知識の多寡はあれど論理と言う共通言語がありまともな議論がしやすいですが、これも人それぞれ。かと言って、構成員のレベルを上げよう、という教育はほとんどできず(説明会くらいの表層的なものはありますが)、自主的な学習にゆだねるしかないのが実情ではないでしょうか。

⇒知識やスキル向上に対する強制力がない中で、教育から学習へのシフトは可能か?

・ナレッジの蓄積が困難
組合活動に参加する人の偏りも理由の一つですし、理事会メンバになる人が持ち回りであること、あるいは大きな事案(例えば大規模修繕)などは頻度がさほど高くないため前回担当者が既にマンションを出ていたり高齢になっていたりすることなど、組合運営のナレッジが蓄積しにくい環境があります。マンション管理組合はある種それを商売のタネにしているところもあって、うまく情報の非対称性を残しつつ、アウトソースのうまみを得ている構造もあります。

⇒プロジェクト単位でチームを構成して離合を繰り返す組織で、どのようにチームとしてのナレッジを蓄積するか?

・全員が兼業
マンションの住人は、当然皆、会社員から主婦まで自身の主たる顔があり、組合活動は専務ではなく兼務となります。本当は大きな資産のはずで優先度は高くあるべきにも関わらず、組合活動はかなり生活の中におけるOne of them感があります。これを、どうバランスするか、時間を作るか、インセンティブを持ってもらうか、結構難しい課題です。

⇒並行して複数のプロジェクトを持つプロ同士が集まるチームの時間の作り方や関与のインセンティブは?

・短期的な視点への偏り
多様な立場の構成員からの声をまとめ、合議的に議論を進めると、どうしても確かなゴールを共有できる短期的な施策に議論が陥りがちです。マンション保有の目的が異なり、この後保有する期間も人それぞれであるため、どうしても不確かな未来の話は先延ばしになりがちです。本来は、ただのメンテナンスだけではなく、資産としてのバリューアップも組合は検討すべきなのですが。法人でいうところのミッションや中長期でのビジョンを描きにくい(というか持っていない)のです。

⇒プロジェクト単位でチームを構成して離合を繰り返す組織で、どうすれば共通の「大きな」ゴールを持ち中長期的な視点で取り組みを進められるのか?

・利己的な考えがベース
利他と利己という考え方がありますが、どうしても利己的な考え方に陥りやすいように感じます。まずベースとして多様な赤の他人同士、会社以上に他人への理解と寛容が難しい。また他人に積極的に関与することが良いのかという共通認識が得られにくい問題もあります。さらには、会社と違って皆の目的が一つではないので、その目的のもとに名目上一つになって利他的に動くことを強いるのも難しい。
会社でも程度の差はあれこれらの状況はありますが、ただあまりに利己的な人は周りの目もあり相当働きづらいし、会社は人事というパワーを持つのである程度秩序が保たれます。一方、マンションでは他人の目はあり交流がなくなり住みにくさはあっても、別に孤立さえ受け入れられれば暮らし続けることは全く可能です。

⇒プロジェクト単位でチームを構成して離合を繰り返す組織で、チームとしての最適をどのように追求できるか?(利他がいいのか、利己でもいいのか)

・(番外編)場外での工作
何かの事案の決議において、組合の総会では不参加の人は委任状を出す(同じ住民の誰かに委任、白紙なら理事長に委任が一般的?)という制度があります。これを、自分にとって都合の良い結論に持っていくために、自分の住民ネットワークを使って委任をうまく集める人がいるんです。ちょっとした工作ですね。

⇒よりメンバの動きに目の行き届かなくなる組織形態において公正さや秩序をどのように保つか?(既存の組織形態でも意思決定における場外での工作は公然とあるわけですが)


書いていたら長くなりました。別に管理組合への不平不満があるわけではありませんので念のため(笑)

結構、今後新しい組織やチームのあり方、個々人の関わりのあり方を考える上で、共通的な課題がありそうな気がしています。「フラットで多様性のある組織」でうまくやっている例はないか、少し探してみたいなと思います。

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