2013年7月3日水曜日

計画された偶発性(Planned Happenstance) -創発的なキャリアのススメ-

人生なんて計画通りにいかない。でも、計画から逸れた脇道で思わぬ発見や出会いがあり、それがまた新たな道になる。

人生やキャリアについて、私はこのように最近特に良く感じています。後付けではきれいな筋道立ったストーリーにしてしまうのですが、キャリア一つとっても、あの時あのプロジェクトやってなければ今のこの道はなかったなとか、あの時あの人に会ってなければ今の会社にいること(そもそも自分が働く場として興味を持つことすら)なかったなとか、皆さんありませんか。これは別に転職を幾つか経験している人だけでなく、同じ組織の中での異動という経験も含めて言えることではないかと思います。

実際、あとでご紹介する記事で紹介されている米国におけるある調査結果では、18歳の時に考えていた職業に就いている人は約2%という数字もあるそうです。ものごとは計画通りにいかないし、それでいい。

■「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)
この、感覚としてはすごく実感値のあるキャリアのあり方を理論化したのが、「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)です。この理論の提唱者は、スタンフォード大学教授のJ.D.クランボルツ氏。「計画」と「偶発性」という本来相反する言葉が一緒になっているところが味噌でして、自らが計画して起こした行動から、自分を成功へと導く偶然のチャンスをつかみ、それをその後の人生に生かそうとするキャリアづくりが、「計画された偶発性理論」。最初にこの理論を目にした時には、やっぱりそうだよなと我が意を得た感覚になりました。と同時にこれはサイエンスとしては厳しいのではと思ったり。

これ、別に偶然をただ座して待つとか棚ボタ狙いとかそういうことではなく、積極的に意図して偶発的な機会を捉えるための種まきを絶えずするということです。「計画された偶発性」(Planned Happenstance)なのですが、イメージとしては「意図された偶発性」(Intended Happenstance)といった方が近いような。

この理論では、偶然の出会いや出来事を生かすキャリアづくりの基本スタンスとしての「オープンマインド」を挙げており、その上で、次の5つのポイント「好奇心」「持続性」「楽観性」「柔軟性」「リスク・テイキング」が重要であると言われています。こちらの記事で概要はわかるのではないかと思います。

■創発的なキャリア
このキャリア理論、言い換えると「動的」(Dymamic)なキャリア、「創発的」(Emergemnt)なキャリアです。個人的にしっくりくると同時に既視感があったのですが、戦略論で言うと、ミンツバーグの創発的戦略に近いですね。個人的に一番好きな戦略論です。

少し話が逸れますが、ミンツバーグの創発的戦略とは、いわゆるポーターの計画的・分析的戦略論(5 Forces等)へのアンチテーゼ(ただし、計画を否定はしていない)であり、ポーターが戦略立案に対して普遍性の高いモデル作りを前提に議論を進めるのに対して、そのような分析的なモデル”のみ”の非現実性や実効性の低さを指摘し、戦略の「創発」という考え方を考慮すべきであると主張するものです。

創発(Emergence)という言葉についてWikiで引くと下記のようにあります。分析とは往々にして要素分解をしその独立性を前提にして進むことが多いですが、そんなに世の中パキッと分解できるものばかりではなく、個々の要素が実際は複雑に絡み合い、その中から当初は予測し得なかった事象が起こることもあり、その総合として全体としての事象は成り立っているということかと。
部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れることである。局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される。
ミンツバーグの立場は、つまり、戦略というものは理路整然と分析され計画されて後は実行すればいいというものではなく、日行業務の中で知らず知らずのうちに生まれてきたり、意図があるとしても試行錯誤の中で次第に形成されていくことが多いものだという認識かと思います。ケースとしてはホンダ(オートバイ)の米国市場への進出が有名ですので、興味のある方はググっていただければ色々と出てくると思います。

また、計画と創発にはそれぞれフィットする環境というものがあります。大きく大別すると、計画がフィットする環境は、前もって予見し意図的に追求できる機会。創発がフィットする環境は、予見可能性が低い世の中。これはキャリアにも言えて、キャリアにおいても偶発性に重みを置く重要性が高まってきているということは、この計画と創発の対比のメタファーで考えると理解しやすいと思います。

■とは言え、計画も重要
理論名にも「計画された」とあるように、偶発性をただ漫然と待つのではなく、計画(というより意図や準備?)をしているかどうかが重要と言えます。対比で出したミンツバーグの理論においても、上述の通り、計画を否定している訳ではなく、計画(統制)と創発(学習)のバランスが重要だと述べられています。

ただ周りの環境に合わせたり会社や上司に言われる通りに道を進めれば、気付けば全く軸のないキャリアになっている可能性もありますし、自ら動くにしても意図や準備なくただジョブホッピングするということも偶発的な機会を活かしているというよりは目の前にある機会に正面から向き合えずそこから逃げ続けているというケースが多いように思います。

以前、ライフネット生命出口会長(当時、社長)のお話を聞く機会がありましたが、その中で起業に至ったのは、偶然に持ちこまれた話との出会いがあり直観で決めたというようなことをお話をされていました。ただ、その直観は勉強で培われるものだとの但し書き付きで。当然その出会いもそれまでの人脈やご経験の蓄積の上にあるのかと思います。この記事では、偶然自分に吹いてきた風を上手に掴んで凧を揚げることに成功したとなっていますが、風が吹いた時に凧を持って走る準備をできているかどうかは重要なことです。私の卑近なキャリア感と対比するのはおこがましい例ですが、それほどの方になっても、やはり準備が機会を捉えるためには必要だと考えておられるのだと感じました。

また、少し文脈はキャリアとは異なりますが、デザイナー奥山氏の下記講演にある「いつ来るか分からない15分のために常に準備をしているのがプロで、来ないかもしれないからと言って準備をしないのがアマチュア」という部分は、意味としては近いかと思います。要は準備をしているからこそ捉えられる機会ということであり、準備をしていない人にはその機会は捉えられませんし、それ以上に機会が目の前にあることに気付かなかったり、気付いたとしてもキャッチアップできないあるいは逃げるしかないということになりえます。

いつ来るか分からない15分のために常に準備をしているのがプロ、デザイナー奥山清行による「ムーンショット」デザイン幸福論

■創発的なキャリアを歩み続けるには
準備せずにただ偶然に身を任せることの危うさは上述した通りですが、もっと危ういのは、計画されたレールに乗るだけで、偶発性に目を向けられず変化に対応できなくなることかと思います。特に、この予見可能性が低い世の中においては。今、グローバル化、人工知能などのマシーンによる代替など、キャリアを左右するさまざまな外的要因が増えてきています。これは、最近流行りの働き方のシフトについての論述でよく見かけるものです。

そういう意味では、私の関心は、どうやって創発的なキャリアを職業人生の最後まで歩み続けることができるのか、計画された偶発性を活かし続けられるのか、です。今、仮に創発的なキャリアを歩めている人でも、創発的なキャリアをとれなくなることは多いと思うからです。それは様々なライフイベント(結婚、子供、ローン・・・)が起因するのかもしれませんし、専門性や地位を築くことでできる考え方の固定化かもしれません。これをどうやって打破するのか。

ちょっとまとまりありませんが、最近の関心事をつらつらと。

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