2012年8月9日木曜日

変えないということ -深澤直人氏のコラムを読んで-


深澤直人というデザイナーをご存じでしょうか。
ここに経歴など)

という問いかけも変に聞こえるくらい有名な方なのでご存知の方も多いかと思いますが、氏はauの携帯「インフォバー」「±0」というブランド(加湿器は多分誰しも見たことある)が有名なデザイナーで、元IDEO日本法人代表(今はないが当時は日本にもあったらしい)でもあった方です。

この深澤直人氏が「d design travel」という47都道府県のトラベル情報が掲載された雑誌にコラムを連載されています。この雑誌をどこかで目にした時に、「変えないということ」という回の内容が印象的でメモっていたのを思い出しました。コラム全体ではありませんが、特に印象に残っている部分だけ下記に引用させてもらいます。
長く使われてきたものは、もう生活の分子になっているから簡単に変えようとしてはいけない。「保守的」といわれるかもしれないが、「保守」ということばには2つの意味がある。1つは、「正常な状態を保つこと」。もう1つは、「旧来の風習・伝統・考え方などを重んじて守っていこうとすること」。それはまさしく長い年月を経て「ふつう」になってきたことを「ふつう」のままにしておこうとすることだと思った。保守の反対は革新で、その意味は旧来の制度を改めて新しく変えることである。制度を改革するのであって、よいものを新しく作ることとは違う。変えるのではなく、しっくりいっていないことを正し、改善すること。デザインは「変える」こととか「新しく」作ることだと思い込んでいる人は少なくない。そういったデザインの一般論に反抗して「変えない」ということは易しくない。「自分のデザイン」というような気持ちを捨てなければならない。でもそうやっていいものを継承して現在の生活に合わせて少しずつ直していこうとすれば、いつか自然に新しいものがぼろっと生まれる時がある。新しいのに、ずっといいものと繋がっているいるようなものができる時がある。

散文的で少しわかりにくいところもある(ご本人のスタイル?)のですが、「変えない」デザインの大切さと難しさ(革新を否定しているわけではないが、何でもかんでもただ変えることが良しとされることへの警鐘)を述べられた内容なのかと理解しました。

身の回りで言うと、生活の分子になっているというと、例えば茶碗みたいなもののことでしょうか。確かに私も、ご飯を食べる器に対して特に新しい形状や独自性を求めていませんし、革新的な米のよそい方を欲しているわけでもありません。

食事に関する周辺を見てみると不思議なもので、人の食生活はライフスタイルとともに変化していますし、台所の機能もだいぶ昔と変わっていますし、器によそう食事そのものにもどんどん変化があります。そんな変化の中にあって、茶碗だけは長い間変わっていない(変化を求められない)という不思議。これが氏の言う「生活の分子」というものでしょうか。

これ、自身の仕事で扱っているビジネスやサービスに当てはめるとのどのようなことが言えるのか、一考に値すると思います。

  • 「変えるもの」と「変えないもの」をしっかりと峻別できているのか
  • 「変えること」だけを是としていないか
  • 「意図的に」そのままにしているものはあるか

「戦略とはやらないことを決めること」というのはあまりにも有名ですが、自分のビジネスで「変えないこと」についてもこのお盆にでも考えてみたいと思います。