2012年4月9日月曜日

プロセスの落とし穴 -プロセスはイノベーションを促すか、妨げるか-


私が気にしているからかも知れませんが、いろいろな記事で、デザイン、デザイン・シンキング、ユーザー中心のアプローチといった新しいイノベーションの方法論についての論稿をよく見かけるようになりました。当然ながら企業で新しい事業や仕掛けを検討している人たちもその重要性に気付き始めているのではないかと思います。

下記の記事では、企業は非常に整ったプロセスが好きであり、それなりのお金をかけてしっかりとしたプロセスを用意すれば、まるでトーストでパンが焼けるように6ヵ月後には業界のゲームを変えるイノベーションが生まれていると考えがちではないかという問題提起がされています。

The Seven Deadly Sins That Choke Out Innovation

こぎれいなプロセスを用意しそれに従いさえすればイノベーションは創造できるか。答えは、もちろん「No」です。私もよくやりがちなのですが、新しい考えややり方を学習する際に、どうしてもプロセスの理解や整理から入ってしまうところがあります。イノベーションを促すはずのプロセスが逆にイノベーションを妨げることさえあるとして、この記事では、IDEOのニューヨーク責任者Ryan Jacoby氏の講演より、こういったプロセスを重視しすぎた場合に陥りがちな7つの罠を紹介しています。まずは簡単に引用。
1: THINKING THE ANSWER IS IN HERE, RATHER THAN OUT THERE:答えは「あっち」ではなく「こっち」にあると考える
「我々は机とメールに囚われているが、ブラックベリーからはイノベーションは生まれてこない」と。オフィスを出て予期せぬ場所からのイノベーションにオープンになるべきであると言い、Jacoby氏は毎日の通勤路で写真を撮ることを課しているそう。 
2: TALKING ABOUT IT RATHER THAN BUILDING IT:「作る」よりも「協議する」
1に関連して、我々は会議・メモ・ディスカッションの世界に生きていて、これらは往々にして何か行動をすることを妨げると。作ってみること、そこから生まれる(洗練されていないかもしれない)プロトタイプはチームをモチベートしいつもと異なった思考を行うことを促すと言います。 
3: EXECUTING WHEN WE SHOULD BE EXPLORING:「探索」すべき時に「実行」する
これもその名の通りで、まだ探索をすべき早すぎる段階で、プロジェクトの方向性の確定を行ってしまうマネジメントが行われがちと言います。 
4: BEING SMART:スマートであろうとする
イノベーションとはまだこの世に見ない新しいアイデアであるため、誤りを恐れていてはイノベーションを導くことはできないという話。 
5: BEING IMPATIENT FOR THE WRONG THINGS:誤りを受け止められない
イノベーションは時間がかかるが、エグゼクティブは往々にして早すぎるタイミングで非現実的な成果を求めがちと言います。 
6: CONFUSING CROSS-FUNCTIONALITY WITH DIVERSE VIEWPOINTS:多様性を目的にしたクロスファンクショナルチームへの戸惑い
「多様性がイノベーションの鍵」と。ただそれは単純にいくつかの機能を寄せ集めるという通常企業が行うクロスファンクションとは異なるため、そこに戸惑いが生じやすいと言います。 
7: BELIEVING PROCESS WILL SAVE YOU:プロセスがあれば大丈夫と信じる
イノベーション戦略を簡単に買うことはできないし、例え何か目に見える製品を生み出すことができたとしてもそのプロセスが成功を保証するわけでもない。プロセスを学び、プロセスを実行し、そのプロセスの中で(イノベーションを)リードするしかないと言います。

なるほど、確かにありそうな罠です。教科書を用意したら逆に教科書通りに進まないといったような感じです。イノベーションのプロセスを用意したのに、それが逆にイノベーションを妨げていると。

では、なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。私は下記のような要因があるのではないかと思います。
・これまでのやり方に同質化する
プロセスに落とし込もうとすると、結局これまでと同じような発想で、会議体を設定して、議論・合意して、実行して、振り返るために会議体を設定して・・・と既存のレールの上にパーツを置いてしまう。結果何も変わらないプロセスが出来上がってしまうというオチ。 
・表面だけなぞって「それやってる」感が生まれる
デザイン・シンキングと言うと響きは新しいですが、プロセスとして教科書的になり、要素だけをかいつまんで表面をなぞれば、これまで自分たちがやってきたことと対して変わらないじゃないかという話が出てきそうです。例えば、人間中心って現場主義・顧客主義と何が違うの?プロトタイプってやってるよ?みたいな。既存の何かに置き換えてしまうという現象。 
・プロセスに従うことが目的化する
未知な領域、取り組みだからこそプロセスに助けてもらう意義も大きいのですが、逆に言うと、よくわからないことに取り組んでいるので目の前にあるプロセスに固執しこれに従うことが目的化してしまうリスクあり。 
・プロセスが正しい=結果が伴う、という等式が前提になる
プロセスに従えば結果が伴うというある種の信頼感(甘え?)によって、そこに生まれる混沌や誤りを受け止められない、ということが起こりうる。誤りや失敗から学ぶことが重要なのですが。 
・他から学習すること、疑うことが止まる
本来、プロセスはマニュアルではないので、それをベースに実践をしながらも、他から学習し、疑い、改善や実践に適応した形にアレンジしていくもの。現実は、プロセスになっていないこと=悪・ルール違反、といった誤った認識が生まれがち。

他にもあるかもしれません。いずれも、ものごとの本質を理解せずに、また実践を通じた実感値として腹に落とさずに、一足飛びにプロセスに落とし込んだ(本質を理解しない人たちにプロセスに従わせた)瞬間に起こりうる現象かと思います。

これらは、組織にイノベーションを根付かせる際の壁についての議論のように見えますが、個人が身近なところで新しいことを発想したり実行に移したりする際にも当てはまること。プロセス思考の気のある自分に自戒の意味を込めて。このブログもそうならないようにしないと。。

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