2012年1月20日金曜日

情報流通革命 マーケティングリサーチに求められる経営的視点 -『The Shape of Marketing Research in 2021』より-

最近似たようなエントリを書いていることを自覚しながら、カラーバス効果というか、あるテーマに一度触れるとそれに関連する情報についつい反応してしまう今日この頃です。

ということで、先日読んだこちらの記事(『The Top Ten Market Research Articles of 2011』)で2011年のマーケティングリサーチ(以下、MR)に関する記事ベスト10がまとめられていましたが、その中から、『The Shape of Marketing Research in 2021』(PDF)をピックアップ。記事の趣旨は、最近エントリした内容(その①その②)に近く、MRに活用できる新しいテクノロジーの台頭と活用できるデータの広がり、そしてクライアントのニーズの変化が起こっており、それに伴って従来MRにもそれらに適応した変化が求められる、というような内容。

この記事がユニークだったのは、将来的なMRのあり方を「情報の川」というメタファーで表現していることです。「ビッグデータ」に近い考え方かと思いますが、情報(魚?)は既に多種多様に大量に存在し(実は今もそうですが顕在化できていない)、いちいちアドホック的にサーベイをして情報を得るのではなく、「情報の川」から欲しい人が欲しい時に欲しいモノを釣ればよいという考え方です。

このエントリでは、「情報の川」というメタファーを使い、MR(と言うよりも、より広義な情報・データ産業)における情報・データのあり方がどのようになるのかということを考えてみたいと思います。
(なお、以下で展開するメタファーは、私が個人的に「情報の川」に発想を得て考えを整理するために創作しているものであり、原文ではもっと真面目に直接的にMR論が展開されているので、是非そちらもご参照ください)


・手に入る魚の種類や量が増えている:入手できる情報の多様化・大量化
技術が進化すると、見える世界が広がります。これは恐らく漁の世界も同じで、川の生態系を把握する技術、水中の様子を観察する技術、魚の好みを把握し釣り上げる技術、一度に大量に釣り上げる効率化の技術等によって、手に入る魚の種類や量が増えていると思われます。手に入る魚の話であって、そこにいる魚の種類や量はあまり変化はないのかも知れません。

これは情報・データの世界においても同様で、ソーシャルメディア、モバイル、オンラインコミュニティー等のメディア・手法が登場していることによって、従来の伝統的な手法によって得られるものから、得られる情報の種類や量が格段に増えています。下記は原文に紹介されていたデータソースの一覧。1,2は伝統的な手法(この中でも進化はあり)、3,4は新しい手法により得られる情報になります。


出典:『The Top Ten Market Research Articles of 2011』


・食卓で求められる水準がより高度化している:クライアントニーズの高度化
消費者の舌は日々肥え続けています。消費者はより、鮮度の高い素材を、より付加価値の高い(おいしい)方法で調理し、それを出来る限り安く手に入れたいと考えます。

ここで言う消費者は、MRに置き換えるとクライアントに当たります(少しわかりにくい・・)。原文ではこのニーズを”Insight On Demand”と表現しています。欲しい人が、欲しい時に、欲しい情報だけを手に入れることができる状態でしょうか。欲しい情報とは、単なる売上データ等の原始的・一面的・断片的なものではなく、うまく事業に活用できるように加工がされており(インサイト化されており)、且つ不要なプロセスや情報が紛れ込まないのでコストも抑えられるだろうというわけです。


・魚を食卓に届けるプロセスも進化している:情報の取得・加工技術の進化
多様で大量な素材(魚)と食卓のニーズを結びつける技術やシステムも進化しています。より鮮度高く魚を届ける冷凍技術や輸送技術、よりおいしく加工するための調理方法や加工技術、様々なプロセスの進化によって食卓のニーズがより高いレベルで満たされようとしてきています。

ことMRという領域においても、情報を取得し加工するための新しい技術が次々に登場してきています。上記図にあるデータソースの部分と重複するところもありますが、原文では下記のようなものが紹介されています。
  • Mobile Data
  • User-generated Content and Text Mining
  • Social Networks
  • Path Data
  • Eye Tracking
  • Web Browsing
  • The Internet of Things
  • Neuromarketing
※内容は過去エントリとも重複する部分があるので詳細は割愛。原文と合わせてご参照ください


・流通がより直接的なものに変わる:クライアントと消費者の直接的な接触
食卓に素材の鮮度高く、消費者のニーズにより適合したものを届けるためには、必然的に食卓と素材(を扱う人)との時間的距離や情報コミュニケーション上の距離が近くなる必要が生じます。魚の消費においても、消費者(までいかなくとも小売・飲食店)がダイレクトに生産者から魚を仕入れるためのシステムが生まれてきています。

また、消費者(含む小売・飲食店)が生産の現場まで足を踏み込み、自社で養殖を行ったり、漁業者に出資をしたりと、ともに素材の獲得や育成に取り組む形も生まれてきています。

上記をMRに置き換えると、クライアント企業と消費者(顧客)の距離が縮まるということを意味します。原文中にはIBMの調査結果として、60カ国・1500人の企業や公共のリーダーのうち実に95%が、顧客との距離をより近くすることが向こう5年の最優先事項だと答えている結果が紹介されています。実際に、ソーシャルメディアにおける対話、コールセンターでのサポート、DIYリサーチでのアンケートといったように、企業がダイレクトに消費者(顧客)に接する機会は格段に増えています。この企業と消費者(顧客)の距離の短縮が、”Insight On Demand”を得る機会の増加、ニーズの増加にも繋がっていると考えられます。

また、原文では”Co-Creation”として紹介をされていますが、下記のような形で消費者とともに何かを作り上げる、あるいは検証・実験するという、消費者をプロセスに巻き込んだ協働の形も生まれてきています。
  • Brand Communities
    企業が独自のブランドコミュニティを持ち、消費者と直接的に対話を行い、意思決定自体に消費者を巻き込む動き
  • Online Crowdsourcing
    社内の「プロ」だけでなく、社外の「アマチュア」の知恵やユーザーとしての声を利用し、ユーザー主導のイノベーションを促す動き
  • Field Experimentation
    新しいビジネスや商品・サービスのテストを社外の消費者にしてもらい、そのコンセプト検証や評価を行うプロトタイプテストの動き


・求められる中間事業者の役割とは
上記のような”Insight On Demand”が求められ、川下と川上の距離が縮む流れが加速すると、様々な業界が同じような経路を辿ったように、当然ながら中間事業者の役割が問われます。魚の流通という意味で言うと、漁協・市場の役割であり、卸の役割です。

これをMR界隈に当てはめると、下記の様な感じでしょうか(ちょっと違うかな?)。当然これらが一体化している企業もありますが。
  • 漁協:(ない場合もあるが)消費者を束ねるパネル屋
  • 市場:情報をアドホック型あるいはシンジケート型で収集・分析するリサーチャー
  • 卸:クライアント企業にリサーチを売る営業

上記の例えがピタッとはまっているかどうかはわかりませんが、いずれにしても、既存のMR事業者は現在情報の「仲介者」としての役割であると言えます。システム(体系)が変化するとそこに関わるプレイヤーの役割が変化あるいは消滅することは必然です。原文では、新しいシステム(より直接的にクライアントと消費者が繋がるシステム)においては、MR事業者には「ナビゲーター」としての役割が求められると言及されています。より多様で大量な情報が溢れる中で、どのようにそれらを統合し意味合いを見出し活動に生かすのか、という点において活躍の機会を見出すべきとの記述です。


・課題から見えるヒント
情報を統合し洞察する「ナビゲーター」とは何なのか。わかるようでわからない(漠然としている)姿です。

原文から、この情報・データの流通革命に当たっての「課題」をピックアップし、ヒントを探ります。幾分安直ではありますが、これらの課題解決者になれる外部プロフェッショナルこそが一義的には「ナビゲーター」と言えるのではないでしょうか。
  • Organizational Resistance
    今後(クライアント)企業が溢れる情報を取り扱うにあたり、社内の組織間の壁を越えた情報の交流や方法論の統合が必要になる。つまり、カスタマーインサイト、顧客のフィードバック(生の声)、DBマネジメントスキル、IT等々、現在それぞれ別の部門で管理・運用されている情報や方法論をどのようにつなぎ合わせるかという問題。
  • Resistance to "The New"
    人は“time-tested(時の試練を経た信頼できる)”な手法に慣れると、それを置き換えることに積極的になりづらいもの。それはことMRにおいてもクライアントサイド・外部プロフェッショナルサイドともに同じことであり、特に意思決定権のある上層部にこそ長年の“time-tested”な手法が染み付いているという問題。
  • The Institutionalization of Metrics and Norms
    上述の“time-tested”な手法に問題は近いが、企業の経営を測るモノサシ(指標、測定方法等)が深く作りこまれていればいるほど、組織はそれに従って(それを成果指標にして)動いているので、一朝一夕に変えるのは難しい。顧客から得られる情報や関わり方が変わる中では、必然的にこのモノサシを変える必要があるが、それが一筋縄ではいかないという問題。
  • Research Suppliers Must Defend Current Lines of Business
    外部プロフェッショナル企業も一事業会社。当然ながら売上や利益を上げることは至上命題であり、その多くを占める既存事業(要は既存MR)を捨て、新しい事業に置き換えるということには消極的であるという問題。
  • Lack of Buy-in to the Change
    "Buy-in"とは、同意しサポートする、コミットする、といった意味合い。この変化に対するクライアント企業の"Buy-in"を部門や階層を上下に横断的に得られるかという問題。
  • Poor Implementation
    的を絞った限定的なものであっても、早期の成功事例がクライアント社内でのコミットメントを広げる鍵となる。いざ新しい考え方を実行に移した際に出てくるであろう「残念な」結果をどのように防ぐのかという問題。
  • Talent
    情報・データの流通革命に当たっては、これまでとは全く異なるケイパビリティがクライアントサイド・外部プロフェッショナルサイドともに必要になる。外部プロフェッショナルとして、何をコアなケイパビリティとしていくのか、どのようにキャッチアップするのか、またクライアントの理解レベルを向上すべくどのようなトレーニングを提供していけばいいのか、といった人材の問題。


・総じて
総じて言えることは、上記課題解決者としての「ナビゲーター」の役割が仮にあるとすると、そのカウンターパートはもはやマーケティングリサーチ部門ではなく、CMO(Chief Marketing Officer)やCKO(Chief Knowledge Officer)といった、いわゆるC-suiteレベルになってくるであろうということです。情報・データの流通革命における課題解決は、部門横断的であり、組織の意識・行動改革であり、管理手法改革であり、リスクテイキングであり、ケイパビリティ・教育体系の見直しであり、非常に複合的で多層的な取り組みになります。これはつまり、外部プロフェッショナルとして経営レベルでの提言力や課題解決力が求められてくることを意味するのではないでしょうか。

さて。。

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