2011年10月29日土曜日

「シンプル・イズ・ザ・ベスト」と言うけれど -ジョブズ追悼号を読んで考えたこと-

色々なところで書き尽くされていて、今更感甚だしいことを自覚した上で、「ジョブズ」というキーワードをタイトルに入れてみました。私は80~90年代はジョブズという存在自体知らない子供時代を過ごしましたし、現在までに手にしたApple製品はiPodとiPhoneだけという筋金入りの「にわか」です。

ただそんな「にわか」から見ても、ジョブズの功績や人生・キャリアの流転、エピソード・発言の数々は惹きつけるものがあります。ということで、下記の追悼号を読んでみました。関西方面への新幹線の移動中に読んだのですが、いつも眠気が確実に襲ってくる横浜名古屋間でまったくまぶたが落ちてこないくらい、一気に読めました。

「CEOスティーブ・ジョブズ 追悼号」(MacPeople 12月号増刊号)
「追悼 スティーブ・ジョブズ」(Mac Fan 12月 臨時増刊号)

内容は「にわか」ではない人にはきっと「懐かしいな~」「そうそう、あの時のプレゼンで・・・」といった感想を持つだろうものでしたが、私のような「にわか」にはジョブズやAppleの哲学や考え方を学ぶ良い教材でした。その中でも、特に気になったのが「シンプルであること」への拘りです。

Appleには「Hot, Simple and Deep」という考え方があるようで、下記のようなものです。
自社製品が多機能であることをデザインで誇示しようとする他社に対して、アップルは見た目と最初の使い勝手をシンプルにしながらも、使い込むうちに奥の深さに気付くような作りを好む。それこそが、ジョブズの考える理想の製品デザインだからだ。(『Mac Fan』より)
それまで見たことのないような「Hot」なコンセプトやアイデアを持つことによって、消費者はその製品と出会った瞬間に興味を掻き立てられ、試してみたくなる。続いて、実際に製品に触れてみると、「Simple」でわかりやすく、すぐに使えるようになってしまう。そして、使い続けていくうちに、最初のうちは気付かなかった工夫や心遣いが「Deep」な部分に見えてきて、それが持つ魅力にはまっていく。(『Mac People』より)

まあ、「シンプルであること」の重要性はジョブズに言われなくても直感的に感じるし、消費者としてもシンプルに必要最小限の機能で良いということは思うところもあります。ただこれを実際のビジネスに落とし込むのは非常に難しいことであると、サービスの企画や開発を行う身としては常日頃感じます。Appleのデザイン戦略の責任者であるジョナサン・アイブも下記のように言っています。
シンプルにするという作業は、もっとも難しいことの一つである。

では、なぜ皆が「シンプル・イズ・ザ・ベスト」と口で言いながら実践が難しいのか。自分なりに幾つか考えてみましたのでメモしておきます。

・「消費者・顧客の声に耳を傾ける」ことへの万能感
確かに消費者や顧客の声に耳を傾けることは、新しい企画のアイデアのヒントを得たり検証をする際、あるいはリリース済みの製品・サービスについてのフィードバックを得る際、有用なインプットの一つであることは疑いのないところです。ただそれよりももっと重要なことは、そこで得た幾つもの声から意味合いを見出し、本当に取り込むべきものを絞り込むことです。声を聞くことはあくまでも手段なのですが、それが目的化しているケースがあるような気がします。

・フォーカスされていない顧客像
万人受けを狙うには、万人に使い勝手の良いものにし、機能のレベル(?)もリテラシーの一番低い層に合わせる必要があります。また、とにかく網羅的に機能を盛り込むことも必要になってきます。

・企画者自身の製品・サービスのコアや本質への理解不足
自分にも耳の痛いことですが。。上述のジョナサン・アイブは下記のように言っています。
見かけ上のスタイルとしてのミニマルさ、サインプルさがある一方で、真のシンプリシティというものが存在する。後者がとてもシンプルに見える理由は、本当の意味でのシンプルさが突き詰められているからだ。

また、かのアルバート・アインシュタインは下記のように言っていたそうです。
すべてのことは、これ以上単純化できないというところまで、可能な限りシンプルに作られるべきだ。
Everything should be made as simple as possible, but not simpler.
ものごとをシンプルに説明できないということは、十分に理解していないということだ。
If you can't explain it simply, you don't understand it well enough.

・「何をするか」思考によるNice to have(あったらいい)の罠
「何をするか」を考えるということは、確かに重要ではあり、その発散のプロセスがないとアイデアは何も生まれません。一方で、そればかりに固執すると、重み付けがされないアイデアの羅列になり、Nice to have(あったらいい)が捨てられないといった自体に陥りがちであるように思います。

ジョブズの「最も重要な決定は何をするかではなく何をしないかを決めることだ」という言葉はあまりにも有名です。
『Mac People』のジョブズ講演の記録にも下記のような言葉があります。
フォーカスするということは、フォーカスするものに対しての「イエス」を表明すると同時に、フォーカスしないものへ「ノー」という決断を下すことなのです。

Appleのマウスのシンプルさや、PCのポートの少なさは、この「何をしないか」が生み出したものの好例に思います。

ちなみに、Instagramの創業者も同じようなことを言っているようです。
「何をするか重要なのではなく、何をしないかが、製品を決める」:絶好調のInstagram、設立者に聞く成功の秘密(インタビュー)

・「多機能=高い価値」という刷り込み
これも「何をするか」思考に近い話かもしれませんが、供給者側にも消費者側にも「多機能=高付加価値」という認識がどこかにあるように思います。供給者側の「幕の内弁当的になんでも揃っているので、あとは使いたいように使ってください」といったスタイルと、消費者側の「よくわからないから、とりあえず色々できそうなやつ買っておこうか」といった思考が、ムダなのになぜか生きながらえる機能を生んでいたのではないでしょうか。PCのキーボードには一回も使ったことのないキーが幾つかありますし、ガラケー時代は電話とメールと路線検索以外ほぼ使いこなせていませんでした。

iPhoneもそうだと思いますが、らくらくフォンも上記の壁をやぶった実例ですね。

誤解を招いてはいけないのですが、ジョブズも機能を軽視しているわけではなくむしろ重視しています。ただそれをなんでもかんでも盛り込み全面に押し出すということは否定しているということなのだと思います。

・リスクを取らない意思決定
シンプルにするということは、機能を絞るということであり、それは「ハズす可能性」が高まるということでもあります。ハズすことを恐れて、「とりあえず入れとく」的企画・開発をしていないかということも一つのチェックポイントかと思います。これは思考スタイルに近いのかもしれません。


まとまりない感じになってしまいましたが、自身を振り返っても色々あるなと。。
ということで、予習は完了。スティーブ・ジョブズの評伝も買ってしまいましたです。

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