2011年10月9日日曜日

イノベーションは誰の仕事か -ヘルスケアに求められている変化を例に-

「イノベーションのジレンマ」という言葉がありますが、既存のフィールドや成熟した業界で、顧客を持ち、実績を作り、社会的責任を伴う事業運営をしている組織体には、イノベーションを追求することには矛盾が伴います。

先日参加した勉強会(?)で登壇された方が、今ヘルスケアの業界では下記のような変化が求められているということを仰っていました。いずれも左側に書いている内容が今後より求められていくであろうとのことでした。
(説明は私の勝手なざっくりとした補足)

Innovative drug vs Me-too drug
Me-too drugとは効能や作用機序等が従来の製品と大きく変わらない製品のこと。市場規模(患者数)が大きい疾患ではこれであっても事業的にはうまみがあります。

First in class vs Best in class
First in classとは、ある疾患において新しい効能や作用機序を持つ製品を真っ先に出すこと。Best in classとは、「初」ではないが、First in classとは少し異なるポイント・軸で一番の製品を出すこと(これまで問題だった副作用が少ない等)

Value based medicine vs Evidence based medicine
Evidence based medicineというのは、蜜月な営業(MR)にお願いされたからとか、単に○○先生が使っているからではなく、しっかりとした試験等のエビデンスを根拠にした治療・処方をすることであり、非常に非常に重要なこと。今医療の世界ではEvidence based medicineは当たり前になりつつある。これからは、その技術や製品が医療の現場に持ち込まれ、結果としてどのような治療の成果が生まれたのかというところを証明できる製品が求められるということです。

Outcome vs Process
これも上に少し似ているかも知れませんが、どのような治療をしたのかではなく、結果としてどのような成果があったのか、ということで医療技術や医薬品、果ては医師は評価されるべきという考え方。

Personalized vs Public oriented
人間は一人ひとり異なるDNAや体質、生活習慣、価値観を持ち、求める医療の成果やプロセスも異なります。Personalizedとは、そんな一人ひとりに最適化した医療を提供すべきという考え方です。


上記で左側に書いたものが、今後求められてくるイノベーションや変化。
一方で、これらには、下記のような問題にあり、いわゆる既存企業の目的やプロセスに矛盾する面があるのではないかと思います。
  • リターンの保証されない中で、金が莫大にかかる
  • リスクが大きい(誰が担うのか、責任をとるのか)
  • 短期的な投資対効果(利益最大化、コスト最小化)が低い
  • より成果や患者をベースにしたプロセスが求められるため、バリューチェーンが長く分業がセオリーの大企業には難しい
  • 究極の目的が、その疾患において「患者がなくなること」になってくる
  • 未知の領域におけるイノベーションの成功要因は後付けでしか見出せない。属人的ではない仕掛けやシステムがあって成り立つわけではない  等々

以前のエントリーでは、企業のオープンイノベーションが進んでいるとかオープンイノベーションとは言っても企業に手が出せない領域がありそうといったことを書きました。今回の話を聞いて、既存の構造の中での小規模なイノベーションであればそのような手法でも解決できるのかもしれませんが、構造自体を大きく変えるようなイノベーションはもしかしたらオープンイノベーションでも難しいのかも知れないと思ったり。。

上記の勉強会には、上野隆司先生という研究者兼起業家が登壇されたのですが、1万のシーズから1つしか新薬にならないと言われるくらい低確率な新薬研究のフィールドで、この方は、既に1人で2つの新薬を世に上市されており(世界で4~5人くらいらしい)、更にこれからもう1つ2つ上市することを目指されています。元々アカデミアの出身で、自身で創出したシーズをベースに起業し上市までこぎつけたという「新薬発明家」です。(私は存じ上げなかったのですが)

こんなことを言うのは、身も蓋もないのかもしれませんが、このような異才の研究者が、もっと円滑にアカデミアからベンチャービジネスとしてシーズを世に送り出せるような土壌を作る必要があるのかもしれません(この方も途中から米国に拠点を移されています)。属人的ではありますが、「属人的なイノベーションを生み出す非属人的な仕組み」が求められているのではないかと感じます。

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