2011年10月23日日曜日

イノベーション:7つの落とし穴 -整理ではなく創造のためのイノベーション・フレームワーク-

「マーケターのメモ帳」と銘打ちながら、イノベーション関連のポストがやや多い気がしていますが、懲りずにまた。今日はフレームワークについて。

以前、i.schoolのイノベーション関連のセミナーに参加したことを書きましたが、その登壇者のお一人であるデザインコンサルティング会社Zibaの濱口秀司氏が提唱されている「フレームワークの効用」として下記のようなものがあります。
こちらより引用
「この数年、フレームワークという言葉がビジネスの現場で頻繁に使われます。しかし、ほとんどの場合、ロジカルな思考を追求するための、効率的に情報を整理するためのツールとして理解され、利用されているだけです。
じつは、フレームワークには別のめざましい効用があります。正確にはフレームワークを作る活動である<フレームワーキング>の効用です。それは、デザイン思考と密接な関係があり、イノベーティブなコンセプトを生み出すためのキー・プロセスになるものです。フレームワーキングの効用は、論理や整理だけでなく、創造とイノベーションにはたらくのです。

ちまたにはイノベーションに関するフレームワークは数多ありますが、セミナーでの氏の講演はそのキャラクターもあいまって、非常にアトラクティブでした。ので、きっと氏の考え方には何かヒントがあると思い、Google先生に聞いてみたところ、過去に『Structured Chaos: Balance the Science and Art of Innovation』(英語)という論文を書かれていたので、読んでみました。

まだ未消化ですが、よく体系化された内容でしたので、意訳を加えながら要約メモ・抜粋します。イノベーション創出において陥りがちな「7つの落とし穴」という切り口で原文は構成されています。(以下、やや長文です)

■「Build the right thing」こそイノベーション
多くの企業(特にテクノロジーベースの企業)は、活動の力点を品質管理やリソース管理、スケジュール最適化等の「Build something right」に置きがち。テクノロジーやHowの部分だけでなく、マーケットやビジネスの目的とするところにも目を向けた「Build the right thing」が求められており、これこそがイノベーションのプロセスであると言います。

■7つの落とし穴
「Build the right thing」を実現するイノベーションには、適切な創造とインサイトが必要と言います。ここで、氏は、企業がイノベーションに取り組む際に陥りがちな「7つの落とし穴」があると言います。
1. Technology Tunnel-Vision,
2. Misunderstanding Uncertainty,
3. Strategic Driver Shortcuts,
4. Scope-less Innovation,
5. Ineffective Brainstorming,
6. Missing the Model, and
7. Go with the Flow.

日本語で(内容も踏まえて意訳して)言い換えると下記でしょうか。
1. Technology Tunnel-Vision:テクノロジーだけにフォーカスした視野の狭さ
2. Misunderstanding Uncertainty:不確かさについての理解不足
3. Strategic Driver Shortcuts:ドライバーの見極めをすっ飛ばした議論
4. Scope-less Innovation:目指す姿のないイノベーション
5. Ineffective Brainstorming:効果のないブレスト
6. Missing the Model:ブレストを支えるモデルの欠如
7. Go with the Flow:易きに流れる思考

■落とし穴にはまらないための7つの方法

では、どのようにして、落とし穴を回避するのでしょうか。裏返すとこれがイノベーション創出のプロセスであるとも言えます。
※なお、”>>”で書いた日本語のお題目は私の勝手なタグ付けです

1. Technology Tunnel-Vision>>視点を広げる
イノベーションの機会をテクノロジーの視点のみから探るのではなく、「顧客」や「ビジネス」の視点からも探る必要があると言います。詳しくは書きませんが、VCR市場におけるVHSとBetaの競争(Betaは技術的に優れていたが・・)についてのケースが引用されていました。


下記の図は縦軸にイノベーションエリア(技術、顧客、ビジネス)の多様性、横軸にイノベーションインパクトの強さを取った図ですが、左上の象限に、よりイノベーションの機会があり、そこに目を向けるべきという主張です。(現状は左下が多い)
 

これを言い換えると、イノベーションを起こす対象業務を広げるということでもあります。テクノロジードリブンのイノベーションはとかく製品イノベーション が主になることが多いですが、「service innovation」「value distribution innovation」「brand innovation」「customer experience innovation」といったところも非常に重要ということです。

2. Misunderstanding Uncertainty>>不確かさは避けるのではなくマネジする
イ ンパクトの大きなイノベーションを目指すにあたって、イノベーションの機会の大きさは不確かさの大きさに比例すると言います。人は自然に不確かさ(リス ク)を「避ける」ことが不確かさをマネジすることであると考えがちですが、インパクトの大きなイノベーションを実現するには、不確かさに対する正確な理解 とハンドリングを行うことこそがマネジすることであると言います。

その時に重要になるのが、「不確かさのレベル」。目指すイノベーションにおける不確かさのレベルはどこに位置するのか、見極めることが重要です。


不確かさのレベルは大きく4つに分けることができ、特にレベル2(Scenario),3(Direction)にイノベーションの機会があるようです。

・Level #1  Trend
競合や市場計数のトレンドがどの方向に向かうかを見極めることができれば、イノベーションの方向性も予想できるレベル。不確かさは最も小さい。

・Level #2  Scenario
方向性がシナリオ分岐しており、どの枝を選ぶかによってその帰結や必要となるアプローチが異なるため、慎重な選択と優先順位付けが必要になる。不確かさは少し大きくなる。

・Level #3  Direction
360度可能性のある中で、方向性を自ら付けなくてはならないため、その選択と個別のシナリオ定義が非常に難しく、その定量的なモデリングも難しいレベル。不確かさは非常に大きい。

・Level #4  Prophecy
予言レベル。不確かさマックスのため、無視するのが懸命。

3. Strategic Driver Shortcuts>>イノベーションのドライバーを見極める

複数あるイノベーションの候補の 中で、どれにイノベーションの機会を見出すのか。「2. Misunderstanding Uncertainty」で取り上げた不確かさのレベルに加え、「ビジネスへのインパクト」も加味し、イノベーションのドライバーのありかを見出すことが 重要であると言います。


下記のステップで、イノベーションの機会(不確かさの因子)をマッピングします。

Step #1: Identify the Key Uncertainties:
テクノロジー、顧客、ビジネスのエリアから、MECEに(漏れなくダブりなく)因子を20~30個洗い出す

Step #2: Chart the Uncertainties:
縦軸にビジネスへのインパクト(EVAやNPVを活用)、横軸に不確かさのレベルを取り、上記因子をマッピングする

Step #3: Identify the Strategic Drivers:
結果として、下記図のような各象限に機会(不確かさ)がマッピングされ、その中でも、右上の象限(不確かさ大×インパクト大)にマッピングされるのが大きなイノベーションの機会「Strategic Drivers」。


 4. Scope-less Innovation>>イノベーションのタイプ分けをする
目指すべきイノベーションの機会 「Strategic Drivers」が見つかれば、あとはどのようなイノベーションを創出するべきなのかブレストを行う。その際、イノベーションのアプローチに関するタイプ 分けをしておくことが議論の焦点を絞ることにつながり生産的だということです。語呂良くタイプABCDです。


ABCDのタイプ分けは下記。AからDになるに連れて、不確かさが増し予測性が落ちる場合により有効であるとされるタイプのようです。

A: Adaptation:条件やニーズの変化にアプローチを適合させる型

B: Breaking-up:オプションを幾つか用意し、リソースを適切にアロケーションさせる型

C: Creation:全く新しい海図を自ら描き、漸進する型

D: Dilution:不確かさを希釈化あるいは無効にする型

5. Ineffective Brainstorming>>効果の上がるブレストをする
さて、イノベーションのアイデアを創出するブレストを行う土壌は整いました。次に必要となるのは効果的なブレストをやる方法です。

一 般的には、議論は構造的であればあるほどクリエイティブではなく、発散的になればなるほどクリエイティブであると言われることが多いですが、氏のスタディ によると、下図にあるように、あるポイントまでは発散することがクリエイティビティを高めますが、構造的な議論と混沌とした議論のちょうど中間に、最も高 いクリエイティビティが生まれるということです。
このポイントを氏は「Structured Chaos」であると言っています。


 より実践的なところで、どちらかのモードに偏りがち、あるいは効果があまり上がらない場合には、この両極を行ったり来たりする、あるいは求めるクリエイ ティビティの基準をそこまで高くせずにこの「Structured Chaos」の状態を作り出すということを提示しています。

また、ブレストへの参加人数は主体的な参加姿勢を持つ7~10人がちょうどよく、過剰に操作しないことが望ましいとのことです。

6. Missing the Model>>「Structured Chaos」を維持する
氏は、上記の「Structured Chaos」を維持するには、「いかり」と「磁石」の役割を果たす「モデル」が必要であると言います。

こ こで言う「モデル」とは下図の「論理的に示す」「ビジュアルで示す」「シンプルに示す」の交点にある状態を指し、議論は常にこの3つのポイントを踏まえて 示されることが重要であるということのようです。言い換えると、これが新しいコンセプトやアイデアを検証する際に使うことのできる評価ツール(どれか一つ でも表現できない角度があるとNG)でもあるということです。


7. Go with the Flow>>困難なプロセスに備える
最後に、考え方の面から見た落とし穴です。人はどうしても、使い慣れた、取り組み易い、見方ややり方で物事を進めがちです。しかし、イノベーションとはこれとは全く逆のものであるという認識を持つべきだと言います。
・Innovative ideas are concepts that we have not seen before.
・Innovative ideas do not seem do-able in a short term.
・Innovative ideas create controversy, both for and against the idea.

見たことのないもの、短い期間では成しえないもの、軋轢を生むもの、それがイノベーションであるということです。これはプロセス全体に共通して必要なマインドセットと言えるように思います。

■結論として
氏の主張は、冒頭に述べた「Build something right」から「Build the right thing」への転換が、よくその内容を表していると思います。そして、パラダイムの転換にはアプローチの転換を伴うということが非常によくわかります。蛇足ですが、かのアインシュタインも「同じことを繰り返しながら、違う結果を望むこと、それを狂気という」という風に言っていますね。。

また、普段イノベーションだ新サービス企画だと言っている中で、いかに自身がならではの確固たるアプローチ・方法論を持ち合わせていないかがよくわかりました。冒頭に紹介した氏の「整理ではなく創造に働くフレームワーク」というところに学び、自身の仕事でも考えてみなければと思いました。。

■最後に
Structured Chaosを実現するには、"This approach requires us to engage a mature and experienced manager. He/she sets our goals, monitors the meeting tone carefully, and responds quickly to influences that pull toward chaotic or structured."なのだそうです。イノベーションをリードするような人材の育成がどうなされるのかも、一つのポイントになってきそうです。そこまで体系化してくれ、というのは要求が過ぎるとは思いますが。。

2 件のコメント:

  1. 日本語訳ありがとうございます;-)

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    1. 濱口さんでいらっしゃいますか?コメントありがとうございます。
      稚拙な訳(しかも勝手な訳、引用)で恐れ入ります。濱口さんの昨年秋のダイヤモンド社の連続セミナー参加したかったのですが、都合つかず参加できませんでした。いずれ直接学ばせていただく機会があればいいなと、楽しみにしております。

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