2011年9月28日水曜日

オープン・イノベーションの進んでいる領域とそうでない領域 -アカデミアの視点から-

以前、製薬業界におけるオープン・イノベーションが始まっていることに関するエントリーを書きました。提携型と公募型の2つのスタイルが模索されているようでした。

オープン・イノベーションの進化 -P&Gや製薬業界を例に-

本日(2011年9月28日)の日刊薬業で、これに関連するような日本製薬工業協会手代木会長の発言が取り上げられていました。

手代木会長は、日本や欧州では製薬企業が70%以上のシーズを発見している一方、米国では半数以上がベンチャーやアカデミアの研究から開発されていると説明。日本でのトランスレーショナルリサーチの現状については「『入り口戦略』が非常に大きく問われている。基礎から臨床への橋をどうやって架けていくかが喫緊の課題」との認識を示した上で、今後の新薬開発にはアカデミアやベンチャーと製薬企業が連携する重要性を強調した。

「製薬企業が70%以上のシーズを発見している」ということは、創薬力という意味でポジティブに捉える見方もあるでしょうが、全体のシーズ数(母数)が落ち込んでいる、あるいはもっと母数を増やす必要があるのであればネガティブに捉える見方もあるかと思います。(恐らく後者だと思いますが)
日本では米国に比べて「オープン・イノベーション」というものが、まだ黎明期であるということが窺えます。

ただ、日本でも30%のシーズはアカデミアやベンチャーから出ているわけです。では、この30%全てが製薬企業の「オープン・イノベーション」的なアカデミアと企業とのコラボレーションに繋がっているのでしょうか。


少し話は飛びますが、先日TwitterのTLを見ていたら、理化学研究所で網膜再生医療研究をされている高橋政代先生(@masayomasayo)のつぶやきに、この話に関連する話題が出ていました。

研究者の私がマーケットなんて言う理由は、ESから網膜色素上皮細胞ができてこういう治療に使えますよと初めて示し、何百回と講演しお願いしても日本の企業は動かず、結局米のACTが世界を抑えようとしている。結局自分で動かなくちゃだめなんだと分かったのでベンチャーを作った。←今ここ

作った動機はACTよりよい治療(コストも含めて)を作れると思うから、世界で1番なんて唱えて(応用研究なのに)いつまでも税金を使いたくないから、そしてラボは次のシーズ(視細胞移植etc.etc)にシフトしたいから、再生医療産業なんて唱えても事業化しないと無理だから。

ACTというのは米国のアドバンスト・セル・テクノロジー社のことで、ES細胞の領域で実用化に向けて米国や英国で次々と臨床を始めているリーディング企業です。要は、シーズの実用化の方向性も、その有用性も示すことができているのに、(恐らく製薬?)企業が動いてくれない(なので自ら事業化を進める)ということのようです。

このように、企業がオープンイノベーションを唱えて舵切っているように見える一方で、研究サイドからは企業が動かないという声が聞かれています。N=1ですが、前述の30%の中にも、企業が拾っているものと、そうでないもの(アカデミアが自らベンチャー等で事業化しているもの)がありそうだということが読み取れます。

企業が動く場合とそうでない場合、このギャップは何だろうと思うわけです。意思決定のスピードに欠ける大組織ならではの問題か、リスク回避の姿勢か、それとも口ではオープンと言いながらNIH(not invevted here)症候群なのか。。

仮説としては、「領域の成熟度(習熟度)」という点はあるのかなとは思います。上記の例もES細胞を活用した再生医療という新しい(これからの)分野ということで、リスクは高く、検討に時間はかかるし、なじみがないため自分たちはあまり首を突っ込めない(口を挟めない)。一方で、領域が成熟(自分たちが習熟)しているのであれば、ある程度スピーディーに自分たちがコントロールできる範囲で進められるというわけです。

そういった意味で、アカデミアのシーズアウトから事業化に成功した中で、大企業と組んで成功している事例(いわゆるオープン・イノベーション)と、研究サイドが自ら資金調達しベンチャーを立ち上げて成功した事例と、どちらが多いのだろうかというのは気になります(知財ファンドみたいのが絡む例もあるでしょうが)。

別にどちらが良い悪いということではないので、その2つの方向性があってしかるべきだろうと思います。ただ、この2つでは成功要因が全く異なる気がするので、アカデミアとしては早期の方針見極めが肝要なのでしょうね。

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